「紙は減らない」「スキャンしたのに検索できない」「電子帳簿保存法に対応できているか不安」——
多くの企業で電子化は進んでいるように見えて、実際には一部の業務だけが最適化される“部分電子化”にとどまっています。
その結果、ファイルが見つからない、どの部門がどのルールで保管しているのかわからない、電子化しても業務が速くならない、といった問題が続きます。
本記事では、書類電子化を「紙をPDF化する作業」ではなく、全社的な業務改善につながる仕組みとして機能させるために必要な導入の第一歩を、実務の観点からわかりやすく解説します。

電子化の必要性

— 目的は“紙を減らすこと”ではなく“業務データ化” —

書類電子化とは、単に紙をPDF化する作業ではありません。
本質は、紙では活用しづらかった情報を、業務プロセスに組み込める“データ”へ変換する点にあります。
電子化によって得られる基盤は次のとおりです。

  • 検索性:過去の申請書・契約書・図面などを即時検索
  • 共有性:部門間・拠点間での同時利用が容易
  • 証跡管理:誰がいつ閲覧・編集したかログを残せる
  • ハイブリッドワーク対応:在宅・出張先・工場からもアクセス可能

現代の業務は「紙がないと進められない」部分を減らし、
情報を安全に・速く・正確に流す仕組みが求められています。
その基盤こそが、正しく設計された電子化です。

電子化のメリット(コスト削減・業務効率化・セキュリティ)

1. コスト削減

電子化は単なる「紙を減らす取り組み」ではなく、日々の業務に潜む見えないコストを確実に減らす手段です。
保管スペースや印刷費だけでなく、「探すためのムダ時間」が大きく削減されます。

  • キャビネット・書庫のスペースを他用途に転換
  • 印刷・紙・郵送などの細かいコストを削減
  • 書類探しや差し戻しの時間を大幅減

特に「探し物」にかかる時間は可視化しづらいものですが、電子化後は再検索コストが大幅に削減できます。

2. 業務効率化

電子化すると“待ち時間が消える”ことで業務が一気に流れやすくなります。
探す・回覧する・確認するなど、人が介在する作業が短縮されます。

  • 全文検索により、必要な資料を数秒で取得
  • 最新版を全員が共有でき、誤ったファイル使用を防止
  • 承認フローが自動化され、紙の移動待ちがゼロに
  • 在宅・外出先・他拠点でも同じ情報にアクセス

特に承認・申請業務のある企業では、処理時間の短縮効果が大きく現れます。。

3. セキュリティ

紙の書類は、紛失・持ち出し・未承認閲覧など多くのリスクを抱えています。
電子化では「見せるべき人にだけ見せる」運用がしやすく、安全性が向上します。

  • アクセス権限で閲覧・編集できる人を制御
  • 改ざん防止や暗号化により重要データを保護
  • 持ち出し・紛失・複製のリスクを低減
  • 誰がいつ操作したか履歴を残し、内部統制を強化

紙よりも安全で、監査対応もしやすい運用環境を構築できます。

導入のステップ(準備・スキャニング・データ管理)

電子化は「スキャンするだけ」では成功しません。
以下の3ステップを一貫させることが成果につながる鍵です。

① 準備:目的と基準づくり

何を改善したいのかを明確にし、担当・保存期間・KPIを定義します。

  • 電子化する対象範囲
  • 電子データの保存期間
  • 責任部門(総務/経理/技術/情報システムなど)
  • 成果を測るKPI(例:検索ヒット率、承認リードタイム、回収率)

「何を改善したいのか」が曖昧なまま始めると、後から手戻りが発生します。

② スキャニング:品質基準を統一

スキャンの品質は、その後の検索性・OCR精度・共有しやすさに直結します。

  • 解像度(200dpi/300dpi 等)
  • カラー・グレースケール設定
  • 傾き・汚れ補正
  • OCR品質の基準
  • 原本の箱→フォルダ→ファイル命名までの一貫設計

ここで基準を統一することで、部門ごとにバラバラなデータを防げます。

③ データ管理:メタデータと運用設計

電子化後に一番差が出るのが「データ管理」です。運用設計を最初から組み込みましょう。

  • 文書種別/作成日/部門/案件IDなどのメタデータを標準化
  • アクセス権の設定
  • 監査ログを運用に組み込み
  • 電子帳簿保存法などの法要件に対応

スキャンして終わりではなく、活用できる状態を維持する運用が重要です。

失敗しないためのポイント

電子化プロジェクトがつまずく理由には共通点があります。
以下のポイントを押さえることで失敗を防げます。

1. 目的とKPIを見える化

電子化の目的は「紙の削減」ではありません。業務改善の指標をKPIに設定しましょう。

  • 検索ヒット率
  • 承認リードタイムの短縮
  • 必要書類の回収率

2. フォルダ/命名規則を統一

担当者の感覚に任せると、必ずデータは乱れます。
「人が変わっても迷わない/機械が読める」を前提に設計します。

3. 試験運用→本番展開

いきなり全社導入するのではなく、
1部門で短期的に回す → 改善 → 全社へ水平展開、というステップを踏むことを推奨します。

4. セキュリティ・法対応を並行設計

  • 保存期間
  • 改ざん防止
  • アクセス記録
  • 電子帳簿保存法(スキャナ保存制度)

これらは途中で追加するのが最も大変です。最初から運用に組み込みましょう。

山崎情報産業のサービス紹介

山崎情報産業では、電子化を“単なる紙削減”ではなく
業務全体の効率化につながる仕組みとして設計するための支援を行っています。

  • 電子化の目的整理と運用ルールの設計
    └ 電子化すべき書類の選定や、検索しやすい整理方法など、業務に沿った基本方針を明確化します。
  • スキャン品質およびデータ構造の最適化
    └ 画像の見やすさやOCR精度を踏まえ、ファイル名・フォルダ構成・メタデータ項目などの基準を事前に整備します。
  • セキュリティとアクセス管理の設計
    └ 閲覧権限、編集権限、クラウド保管のルールなど、安心して運用できる仕組みを構築します。
  • 導入後の運用支援と改善サポート
    └ 利用状況の分析や定期的な見直しにより、運用が定着し、継続的に成果が出るようサポートします。

電子化を業務改革の土台として活用いただけるよう、実務に即したサポートを提供しています。
詳しくはサービス紹介ページをご覧ください。

サービス紹介ページを見る

まとめ

— 書類電子化の成功は“つながり”の設計から —

電子化は「スキャンして終わり」ではなく、目的設計 → スキャン品質 → データ管理 の3つがつながることで、はじめて全社的な業務効率化が実現します。
次回コラムでは、「電子化すべき書類/残すべき紙」の判断基準について解説します。

シリーズ記事一覧

第1回:部分電子化を脱するための設計と運用

電子化導入の最初に読むべき基礎編

第2回:電子化すべき書類/残すべき紙の判断基準

“全部スキャン”から脱却する選別方法

第3回:OCR精度を上げるためのスキャン設計ガイド

(近日公開)

第4回:メタデータ設計と検索性向上

(近日公開)

第5回:電帳法対応の実務チェックリスト

(近日公開)